水槽の亀

私の実家の近くの家の玄関先に、40cm四方ほどの水槽がおいてある。

中には亀が一匹。多分、私の記憶違いでなければ10年程前からいた。
その亀が入っている水槽を置いている家の前の道は、通学で長年利用していた。亀を幾度目にしたか分からない。

「なんて狭い世界なんだろう」

そう思いながら、外の世界を自由に歩けることにささやかな喜びを感じていた。

勤め人となってからも所用でしばしばその道を使っている。そしてこう思う。

「なんて狭い世界なんだろう」

そう思いながら、外の世界を自由に歩けることにささやかな喜びを、感じてはいなかった。

世界は広い。地球は広大だ。生まれ育った地元の地域でさえ、全ての道を歩き、全ての景色を目にすることはないだろう(やろうと思えば出来るかも?)

でも、世界は狭い。実家の6畳の自室より狭い。亀が入った水槽より狭い。その狭い世界に、気づいたら囚われていた。

労働に、人生に、生死に、欲望に、金に、人間に囚われる。

ふざけるな。納得がいかない。それはそういうモノだ。そんな理屈が通ってたまるか。必ず、必ずやこの世界から脱してみせる。